マクスウェル=ボルツマン分布から考える 株の「億トレーダー」という冷徹な現実

マクスウェル=ボルツマン分布から考える 株の「億トレーダー」という冷徹な現実

億トレーダーは運か実力か?株式市場の富の分布は、物理学のマクスウェル=ボルツマン分布と同じく、極端な不平等に収束します。統計の冷徹な現実を理解し、ケリーの公式に基づいた資金管理で市場のランダム性から抜け出す方法を解説。

巷には「誰でも簡単に億り人に!」といった言葉が溢れていますが、本当にそんなことがあるのでしょうか?

 

私たちは、物理学の法則から導かれる「富の分布」を理解することで、株式投資の世界における「億トレーダー」の正体と、私たちが直面している厳しい現実を知ることができます。

ランダムなコイン交換ゲームと富の分布

まず、思考実験として次のシンプルなゲームについて考えてみましょう。

【ゲームの概要】

  1. 参加者全員が同じ額の初期資産(コイン)を持っています。
  2. 各ラウンドで、ランダムに選ばれた2人が、1枚のコインをランダムに勝ち負けで交換します。

こうした公平なコインの交換を長期間続けると、最終的にどうなると思いますか?

 

「ランダムで公平な交換を続けているんだから、結局、皆が同じコイン数のままなのでは?」という気がしますよね。

 

しかし、答えは逆です。

 

このプロセスを繰り返すと、最終的にごく一部の人が富の大部分を占め、残りの大多数が貧しい状態に収束します。

 

不思議なもので、個々の取引が公平(ランダム)であっても、システム全体としては不平等が生じてしまうのです…

マクスウェル=ボルツマン分布との関連

このコイン交換ゲームの最終的な富の分布は、物理学におけるマクスウェル=ボルツマン分布(Maxwell-Boltzmann distribution)によく似た形になります。

 


この分布は、熱平衡状態にある気体分子の速さ(エネルギー)の分布を表すものです。

 

分布の形: グラフのピーク(最も多くの人がいる場所)は平均以下のところにあり、右側へ緩やかに伸びる「長い裾(ロングテール)」を持つ、左右非対称な形をしています。

 

経済学での類推: 富をエネルギーになぞらえると、大多数の人々は少額の富(低いエネルギー)しか持たず、ごく少数の人々が極端に大きな富(高いエネルギー)を持つという構造になります。

 

株式市場における株価の動き、特に短期的な動きは、予測が極めて難しく、多くの専門家から「ランダムウォーク(酔歩)」に近いと見なされています。

 

もちろん、情報収集や分析(スキル)が影響しますが、市場全体として見れば、私たちの資産も、このランダムな要因と偶然の勝ち負けの影響を大きく受けざるを得ません。

 

そう考えると、株式市場における「億トレーダー」とは、まさにこの「長い裾(ロングテール)」の極めて極端な外れ値に位置する人たちなのです。

なぜ不平等は生まれて固定されるのか?

なぜスタートは同じなのに、富の格差が生まれて固定されてしまうのでしょうか?

初期段階の「偶然」による分化

ゲーム開始後、ある程度の取引回数を経て、純粋な偶然の勝ち負けの積み重ねにより、

  • わずかに勝ち越した「富める人たち」
  • わずかに負け越した「貧しい人たち」

この二つのグループに分化します。

 

この初期の差が生まれる過程は、完全に偶然の結果です。

資産に対する割合の影響

この初期の差が開いた瞬間から、ゲームの力学は富める者に有利に、貧しい者に不利な方向に変わります。

  • 貧しい人:わずかな損失でも、総資産に対する割合としては大きくなり、回復が困難になる
  • 富める人:大きな資産が「緩衝材」となり、損失が総資産に与える割合が小さくなる

資産が少ない人ほど、ランダムな負けが資産全体に与える「割合的なダメージ」が大きくなります。

 

これは、一度貧しくなると、元の水準に戻すためにより高い成長率(大きな利益額)が必要になることを意味します。

 

これが、富を富める人へと徐々に集め、不平等を固定化する不可逆的なスパイラルを生み出しているのです。

 

ちょっと分かりづらい話なのですが、実際に先程のゲームをやってみると、本当に少数の「富める人たち」が現れてくるのです!

株式市場の冷徹な真実

このコイン交換ゲームの法則を株式投資の世界に当てはめると、ある冷徹な真実が見えてきます。

 

「みんなが億トレーダーになれる」という話は、統計的にあり得ません。

 

繰り返しますが、株式市場はある程度ランダムが支配するゲームだと言えます。

 

そのようなゲームで、「なかなか儲からない側」にいるとしても、それは才能や技術の問題ではなく、市場の統計的な力学が、富を分布の長い裾野へと集中させている影響もあるのです。

 

多くの書籍や広告は、この厳しい現実を覆い隠し、短期的な成功事例だけを切り取って見せています。

 

しかし、この現実を認識することこそが、成功への第一歩です。

 

では、この厳しい市場の現実の中で、私たちはどうすれば「億トレーダー」の領域、すなわち分布の長い裾野に近づくことができるのでしょうか?

厳しい現実に打ち勝つための3つの現実的行動

マクスウェル=ボルツマン分布が示す「多数が平均以下に収束する」という法則は、一定の「ランダムな行動」を続けた場合の話です。

 

当たり前の結論ですが、私たちは、このランダムな振る舞いから脱却することで、この法則から抜け出すことができます。

1. 資金管理の鉄則:「損失の非対称性」を逆手に取る

貧しい人が不利になる原因は、損失が資産全体に与える割合的ダメージが大きいことだと説明しました。

 

そこで、第一の方策としては、損失のダメージを最小限に抑えることで、そのスパイラルから脱却します。

 

具体的な方法:

  • 一度の取引で、総資産の1%から2%以上を危険にさらさないという厳格なルールを設ける。

 

これはケリーの公式の概念に基づいた、長期的な資産増加率を最大化しつつ破産確率をゼロに近づけるための防御策です。

 

コイン交換ゲームでは、自分の総資産に関わらず、一定額を投入し続けるというやり方でした。

 

それでは、外れた時の損失が、総資産に対して大きな割合になってしまいます。

 

この第一の方策は、利益よりも、損をした時のダメージを少なくするように考えていくことです。

 

2. ランダムな群衆から脱却する「優位性(エッジ)」の獲得

多くの市場参加者がランダムに取引している中で、億トレーダーは「ランダムではない優位性(エッジ)」を持っています

 

結局のところ、これが彼らが分布から抜け出せる最も大きな理由かもしれません。

 

具体的な方法:

  • 徹底的な学習と分析に投資し、市場がまだ認識していない非効率性や情報を発見する。

 

感情(恐怖や欲望)に流されず、確立したルールに基づいて取引を規律正しく実行する。感情的な取引は、ただのランダムな行動に戻ることであり、分布の大多数へと逆戻りすることを意味します。

3. 「複利の力」を最大化するための時間軸の確保

億トレーダーが富を築けたのは、複利の力を失速させずに利用し続けられたからです。

 

具体的な方法:

  • 短期的なギャンブルではなく、長期的な視点で市場に参加し続ける。

 

最も重要なのは、市場からの撤退(破産)リスクを最小限に抑えること。資産をゼロにしてしまえば、そこで複利の魔法は途絶えてしまいます。

 

リスクを抑えて、市場に居座り続けることこそが、複利という最強のエンジンを機能させる土台となります。

 

「億トレーダー」になるのは簡単ではありません。しかし、統計の現実を理解し、ランダムな行動から抜け出して規律と防御を徹底すれば、あなたは大多数が留まる分布のピークから離れ、確実に「長い裾野」へと近づくことができます。

 

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